TL:DR;
- リーマンショック直後の2009年冬にBessemer Venture Partnersが発表したスライドは直近のSaaS事業運営の上で示唆に富む
- 5C(CMRR、Churn、Cash、CAC、CLTV)などの重要指標をモニタリングしつつ、生存戦略を紹介
- カオスは機会を連れてくる
リーマンショック直後の2009年冬にBessemer Venture Partnersが発表したスライドは直近のSaaS事業運営の上で示唆に富む
時は2009年、リーマンショックの直後である。Bessemer Venture Partnersはtwilio(NYSE)、shopify(NYSE)、wix(NASDAQ)などへの投資実績もあり、SaaS投資をするVCとして知らない人はいないであろうVCだ。直近の騒動でSaaS界隈もざわざわしているわけなんだが、ちょうど2009年のリーマンショック近傍で起きてたことはなかなかに参考になりそうなので、スライドのエッセンスをまとめた。
1.売上だけ成長しても市場からは評価されない
当時伸びていたSaaS銘柄の市場評価が軒並み急落した。そこで、売上以外にも解像度高く事業を知るための5C(CMRR、Churn、Cash、CAC、CLTV)などの重要指標をモニタリングする重要さを説いている。なお、これらは別記事で解説する。
2.戦略としてストラテジックに重要なこと
最優先で現金を確保しろ
調達フェーズにいるならできる限り額を上げて可能な限り早く、調達フェーズにいなければとにかくバーンを下げること。
SaaS指標の見直しに取り組め
突き当たり支出と収入をバランスさせろ。さらに、新しい成長を当てにせず、ROI(売上の増分/使った広告宣伝費)>1になるところだけに集中しろ。G&A(一般管理費)とR&D(研究開発費)を適切に見直せ。
自社評価額が下がることを受け入れろ
上場しているSaaS会社ですら55%近く下げてる。
短期で安いMRRを買うことに気を付けろ
焦って買収したり、資産を手に入れるな。放っておいても、競合を買うチャンスが来る。
早く行動しろ
待っていると時間切れになる。
3.戦術としてタクティカルに重要なこと
広告宣伝費
- ハンターよりファーマー(顧客関係維持による解約率の低下)に集中しろ
- 割引などを受けてでもMRRの先払いを優先しろ
- セールスのインセンティブ構造の成果比率を高めて、基本給を下げろ
- 発信して、会社が存続していることを市場に届けろ
- 垂直セグメント(今対象としている業界)を考え直せ
- マーケティング費用の配分を考え直せ
- 費用削減により、オフラインイベントへの参加が抑制される ←SL注:別の要因だけど、全く同じことが起きてるな…
一般管理費
- 売掛金の回収サイクルが長引くので、これを閉めろ
- 支出を減らせ(リースの再交渉、旅費の削減)
開発費
- 開発ロードマップの見直し
- 可能な限りオフショアを活用する
最後に
カオスは機会を連れてくる、というスライドがとても勇気づけられるスライドだった。このような混乱期は、競合も苦しいので、凌ぐことができれば競合との戦いが有利になるし、さらに優秀な人材を採用するとても良いきっかけになる。最近、これらの話題で持ちきりで疲れることも正直ある。でも前を向いて今日も仕事をしよう、と感じる素晴らしいスライドだと感じた。
最後にSaaSを理解するための本のご紹介と宣伝
SaaSの本質であるリード生成、商談獲得、商談受注までのプロセスを表す一連の流れを指し、Salesforce、Marketoで勤務した経験を持つ福田氏による名著です。基本的なSaaSオペレーションの諸概念について、簡単な言葉で表現してくれており、SaaSの全体観を掴むのに適しています(なお、SaaS全体のおすすめ本はこちらにまとめています)。
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- ホリゾンタル・バーティカルSaaS
- エンタープライズとSMBSaaS
などの分類とまた、その他関連SaaS書籍をまとめておきましたので、興味のある方は以下よりご覧ください。なお、リンクのクリックで個社の過去記事をご覧いただくこともできます。