全体の展望を掴む編
まずは、SaaSとは何かを理解するための本をご紹介します。
ザ・モデル
「ザ・モデル」はリード生成、商談獲得、商談受注までのプロセスを表す一連の流れを指し、Salesforce、Marketoで勤務した経験を持つ福田氏による名著です。過去の体験談がやや多めではあるものの、基本的なSaaSオペレーションの諸概念について、簡単な言葉で表現してくれており、しばらくこれを超える名著は出てこないでしょう。
国内新規IPO SaaS KGI / KPI 白書 2021年第一四半期: SaaS 企画・新規事業立案・転職のための各種数字によるヒント集 (Saaslife出版) Kindle版
拙著で恐縮ですが、ザモデルがオペレーションについて書かれた本の一方で、こちらはどうやって上場企業のSaaS数値を解釈するか記載した電子書籍になります(最新版は2021年の第三四半期、すなわち2021年7月〜9月の間に上場したラキール、フューチャーリンクネットワーク、モビルス、ユミルリンク、ロボットペイメント、セーフィーの6社を取り上げています)。kindle Unlimitedに加入されてる方は無料で読めますのでよろしければぜひ読んでやってください。kindle Unlimitedはこの本以外にも無料で読むことができる本が多いので、おすすめです。
図解でわかるSaaSのすべて
「図解でわかるSaaSのすべて」については、ASPとSaaSの違いなどを一通り理解するために優れています。 少し堅め。
クラウド誕生
「クラウド誕生」は最強のSaaS企業との名高いSalesforceの創業者で代表取締役CEOのマーク・ベニオフの自伝です。自信がSalesforce創業に至った経緯や、Salesforce内部の独特なマネジメント概念「V2MOM(Vision, Values, Methods, Obstacles and Measuresの略。ブイツーモムと読みます)」などについても書かれており、SaaSという概念がどのような流れで生まれたのかの全貌を掴むのに役に立つと思います。
職種別編
ザ・モデルに付随して、職種別に押さえておいた方がいい本をご紹介します。割と共通の用語が出てきたりもするので、粗くとも一読しておくことをおすすめします。
マーケティング
森岡節炸裂の一冊。マーケティングについては古くコトラーから、軽いビジネス書までとかくピンからキリまでという感じで玉石混交感半端ないんですが、一冊あげるとしたらこれですかね。組織のターンアラウンドを経験した人の言葉はひびきます。
フィールドセールス
ハンターとファーマー、ソリューションセールスなど、あらゆる概念が詰まっている本です(正直、SaaSのスタートアップがやっているセミナーは、これとザ・モデルを読んでいれば知識を得るために参加する必要はありません。ただ、現場で他社はどうやっているかの情報収集のためだけに参加すれば良いのです)。
こちらも有名なので上げておきます。正直この2冊を読めば、いったん営業本として読む必要はこれ以上ないかな、と思っています。
インサイドセールス
個人的にインサイドセールスについては、フィールドセールスとほぼ同じことを電話でできるかどうかが重要だと思っており、ただのテレアポとは違うと思っているのですが、一応上げておきます。
少し変わり種ですが、インサイドセールスの「キャリア」についてはこの本が異色ですが面白かったです。インサイドセールスに限らず、SaaSのセールス関連職種全般に役に立つ本かもしれないなと感じました。
セールスイネーブルメント
元セールスフォースでイネーブルメントに関わっていた山下さんの書いた書籍です。どちらかというと運用が大変なのは明らかですが、概念としてなるほどそうなっているのねというフレームワークを整理するのに適しています。
カスタマーサクセス
いわゆる赤本、です。ザモデルの一部をより詳しく事例などを交えて掘っている感じですね。
赤本と基本的に同じ内容です。どちらかメルカリで安く手に入る方を読んでおけば良いかと。
営業企画/事業企画/事業推進
営業企画の観点からSaaSを捉えると、TAM(Total Addressable Market)を特定して、どれだけシェアが取れるか、ですよね。国内の会社についてですが、上場企業の勢力図が俯瞰できます。自社がどこに強いのか、というのを説得力を持って説明するのに適した一冊です。
日本国内だけでもSaaSを提供している会社は20社くらいいます。このような会社が何をしているのか、俯瞰して掴むために適しています(なお、SaaS会社は部分的に業界地図には出てきません。その補強材料として、オススメします)。
経営企画
SaaSは、その語義から考えてもSoftware As A Serviceです。そしてその存在意義からも、クラウドに載ったソフトウェアを提供してお金を稼ぐモデルです。もしあなたがSaaS企業の経営企画に配置されたとして、予算管理などをしていく際、「そもそもクラウドに載ったソフトウェアが何か」がわかっていなかったとしたら、おそらく仕事はしづらいでしょう。ということで、最低限このくらいの知識はあったほうがいろいろ円滑ですよ、というので一冊書籍を推薦します(冒頭でご紹介した「図解でわかるSaaSのすべて」よりもウェブ技術前半について解説があります)。
次に、あなたが経営企画なのであれば、会社の永続的な成長のために新規事業を創ることについても考える必要が出てくるでしょう。その際に役に立つのがこちらの本です。どちらかというと、新規事業をゼロから立ち上げる、M&Aによる買収のうち前者に寄った考え方ではありますが、新規事業を創る上での資金をど調達するかというところに集中した内容になっています。
少し前の本になりますが、ウェブについて理解して、資金を用意できて、と並走して進める必要があるのが社内の納得感醸成です。ビジネスモデル・キャンバスというフレームワークが載っており、これに沿って事業を整理すると、多角的に物事を説明できるようになるのでオススメします。
最後に、やはりSaaSについては発祥の地、アメリカが一日の長があります。どのような会社があるのか、事業の概要を掴み、自社事業に活かせることのあたりをつけるためにコンパクトにまとまっているのでオススメします。
人事
特に最近SaaSスタートアップ界隈では猫も杓子もOKRを導入している感じがするのですが、「OKRってそもそも何か」「もしもイケてるOKRを設定することができたらどういう感じになるか」ということを把握するために使えます。なお、OKRコンサルの人たちがいますが、私個人の考えを述べるとすると、正直この本の内容以上のことを言ってるかたと会ったことがついぞありません。ので、書籍で十分概要は掴むことができるということを申し上げておきます。
ありがちな話として、人事は戦略を実行する人を採用する必要があるため、経営との距離が近いポジションにいがちです。ただ、本当の意味で経営のパートナーになるには、経営がどういうストーリーで物事を考えているのか(平時はKGI/KPI推移が議論の中心だったとしても、大きな絵を考えているものなのです)のイメージを掴むために良い書籍だと思います(が、これは学者の方にありがちな「成功事例を後付けで説明する」書籍ですので、その点は割り引いて読んでみてください)。
エンジニア
とりあえず上記に挙げた本の中で、普段関わる職種・関わりの薄い職種の本を順番に読んでみてください。いわゆる「ビジネスサイド」の人たちが何を重要視して生きているのかがかなり理解できると思います(なお、当方ついぞエンジニアだけは経験したことがありませんで、逆の立場でのアドバイスはできません。ご容赦ください)。日本の未来展望を掴む
後ほどロジカルシンキングの項目で安宅さんが再度出てきますが、とにかく熱い。シン・ゴジラとタイトルをかけているあたりもなんか憎いですよね。まとめると、日本は労働生産性を上げていく必要があるという話ですが、観念的な話に終始するだけでなく、数字やデータをふんだんに入れながら話を展開していく様は、さすが元マッキンゼーの方なだけあるな、という感じの一冊です。
こちらは経営共創基盤の富山さんの一冊です。今回のコロナを受けて何が起きるのか、などを考える上で有用な一冊。
同じく富山さんの一冊ですね。これは今後DX推進が企業のSaaS導入の追い風になることを考える上で参考になる示唆がたくさん含まれています。マクロで日本の動向を捉え、セールス資料の背景部分を考える上でお役立てできる方も多いのではないでしょうか。
その他
ここから先は完全に好き嫌いの世界なので、本当にSaaSと関係がなくなります。ですが、管理人SLの影響を受けた本ということでよければ何か参考になることができましたら幸いです。
メンタル管理
もしも一つだけ自己啓発本を選ぶことができるとしたら。私は迷うことなく七つの習慣をおすすめいたします。とかく様々な部署との利害調整がおきたり、目標が高いSaaS事業の運営において、変えられるのは自分と未来だけと言うスタンスで自分の影響力の和に集中することの重要性を説いた本書は、そのほかのあらゆる自己啓発書の原典に当たる一冊だと言うことができるでしょう。著者のフランクリン・コヴィーがいかにしてこれらの発想に至ったかの回顧録の部分にも自慢げな雰囲気はなく、キャリアの浅い・深い、SaaSに関する業界知識の有無を問わず全方位的に管理人SLが胸を張って進めることができる一冊です。
「嫌われる勇気」については、「関心の分離」と言う概念により、自分が集中すべきこととそうでないこと、人の問題と自分の問題は違うこと、などの概念を対話形式の文章でわかりやすく伝えてくれます。七つの習慣を別の角度で見るために良い書籍だと思います。
ロジカルシンキングの基礎
1つ目はYahooのCSO、安宅さんの名著、「イシューからはじめよ」です。この本のおすすめポイントは、安宅さんの熱量。そして概念としての「イシュー度」だったり「解の質」と言う概念です。折に触れて読み返します。メンバーに対して、ロジカルシンキングの概念を伝える際に使っています。「犬の道」を通るなという主張には共感しつつ、結局犬の道を突き抜けた先に生産性の高い仕事があるんだよなと思っている派です。
2つ目の「考える技術・書く技術」については、バーバラ・ミントさんの本が有名ですが、和訳でところどころ訳文がおかしいのに加えて文章の内容もやや日本語では違和感があります。ので、薄くて実践的なこちらをおすすめします。
最後にSaaSを理解するための本のご紹介と宣伝
SaaSの本質であるリード生成、商談獲得、商談受注までのプロセスを表す一連の流れを指し、Salesforce、Marketoで勤務した経験を持つ福田氏による名著です。基本的なSaaSオペレーションの諸概念について、簡単な言葉で表現してくれており、SaaSの全体観を掴むのに適しています(なお、SaaS全体のおすすめ本はこちらにまとめています)。
ちなみに2021年以降にIPOしたSaaS関連各社の四半期単位の各社については、本サイトをまとめた書籍を執筆しています。(画像クリックでamazonの新しいタブが開きます。)当該期間にIPOした新規上場SaaSの分類として、
- ホリゾンタル・バーティカルSaaS
- エンタープライズとSMBSaaS
などの分類とまた、その他関連SaaS書籍をまとめておきましたので、興味のある方は以下よりご覧ください。なお、リンクのクリックで個社の過去記事をご覧いただくこともできます。