ユーザベースはMRR「推移」を開示している唯一の日経SaaSです。
はじめに、普段はプロダクトの紹介から入るのがsaaslifeのスタイルではありますが、今回は若干の補足をさせてください。若干タイトルが釣りっぽくなってはしまうのですが、ユーザベースは、他の日経SaaS企業と異なる特徴を持っていることを最初にご紹介します。それは、MRRの「推移」を公開していることです。以下の図をご覧ください。
2020年10月14日時点で最新の四半期決算である、2020年8月12日発表の2020年6月期第4四半期決算説明資料によれば、freeeのARRは78.9億円ということです。こちらは、12で割るとMRRを算出することができる一方で、「推移」という形ではわかり辛くなっています。一方、ユーザベースについては、MRRについて、その推移をQuartz、NewsPicks、FORCAS、INITIAL、SPEEDAについて公開しています。これは、後述しますが、物差しを使えば、具体的な各時点でのMRRが正確にわかってしまうデメリットを抱えていますが、これを公開するということでMRRを上げていくことに対する覚悟をしっかりと市場に見せ付けている感じはしますし、このサイトでは基本的にMRRは全て推定で算出している関係上、とてもありがたい決算資料だと感じる会社です。
参考までに、こちらは名刺管理SaaSのSansanに関するMRR推移グラフです。確かにこれは推移を著してはいるのですが、その縦軸が一切明示されていないので、MRRが一体いくらなのかについては、憶測の域を出ません。
ユーザベースはB2BにSPEEDA、B2CにNewsPicksを主要事業としてサービスを提供。
はじめにユーザベースの各サービスについてご紹介します。こちらはユーザベースの抱えているプロダクトの一覧です(厳密にはUB VENTURESは投資が中心なので、プロダクトと呼んでもいいのか、という感じはいたしますが、UB VENTURESとAlphaDriveをのぞいたものがユーザベースの提供するプロダクトだと思っていただければ差し支えないかと思います)。
ユーザベースの事業セグメントは4セグメント、最も大きいのがSPEEDA
こちらはユーザベースのセグメントと対応するサービスを合わせたグラフです。SPEEDA、Quartzは名前が直接サービス名と対応しているのでわかりやすいんですが、2020年3月27日発表 第12期 有価証券報告書によれば、ユーザベースは、
- AlphaDriveは事業シナジーの観点からNewsPicksへ
- INITIALとFORCASはその他へ
含めているということです。特にAlphaDriveは大企業内における新規事業創出を支援する、という役割を狙っているようで、その際にNewsPicksを導入する、という使命も持っている、という位置づけなのかな、という感じがしました。なお、私自身、普段はスタートアップに勤務しているので比較的ここに出てるサービスについては、馴染みがあります。あまり馴染みのない方達のために簡単にサービスの概要を解説すると、
- SPEEDA:経営企画が使う企業調査ツール
- NewsPicks:ニュースメディア
- FORCAS:マーケティング部門向けの企業ターゲティングツール。共通の特徴を持った企業群を抽出することができる
- INITIAL:スタートアップの資金調達動向などをまとめた情報サイト
以下は正直馴染みはあまりないのですが、ホームページを見る限り、以下の内容のようです。
- Quartz:海外動向を中心としたニュースメディア
- AlphaDrive:大企業をターゲットにした新規事業創出を支援
2008年に創業後、2016年10月に東証マザーズ上場
ユーザベースの沿革によれば、同社は2008年の創業後、翌年にはSPEEDAをリリースし、2014年にNewsPicksをリリース後2016年に上場を果たしています。SPEEDAがリリースされた2009年といえばリーマンショック真っ只中という状況だったはずなので、最初のクライアント獲得などはかなり苦労したのではないか、ということを想像するわけなんですが、SPEEDAにとどまらず、次々と新しいサービスを、しかもしっかりと関連付いたサービスをリリースし続けていくというところがすごいなと感じます。
ユーザベースの開示KGI(売上高)推移:2020年3月期末で125.2億円。直近YoY成長率は134%
では続いてユーザベースの売上高から見てみましょう。直近6年の売上高の推移を見ると、売上高の成長率は上場後も134%〜205%の圏内で成長を続けております。なお、2017年から2018年にかけて、売上高成長率が昨年対比で205%になっていますが、これは沿革でも触れたQuartz事業の買収によるものですね。
直近の推定クラウドサービス比率は43.1%
続いて、クラウドサービス(月額課金)の比率について見てみましょう。ユーザベースの売上高セグメントはSPEEDA事業、NewsPicks事業、Quartz事業、その他事業の4つです。こちらの中で、NewsPicks事業とQuartz事業はサブスクリプション要素が入っているものの、メディアではあるので、純粋なクラウドサービス比率には含めないほうがいいだろう、という仮定の元クラウドサービス比率は
- (SPEEDA事業売上高 + その他事業売上高) / 全売上高
にて算出しました。が、「荒い推定」であることにご注意ください。こちらについては、有価証券報告書ベースの売上で算出しているので別の方法でもう一つ算定の方法を示します。それはユーザベースの公開しているMRR推移より算定する方法です。
MRR推移で算定した直近のクラウドサービス比率は41.1%
こちらはユーザベースのMRR推移です。こちらの縮尺を当てて考えると、MRRと書かれている部分の売上高は
- 51.5億 = (6+4,3) x 12 / 2
- 2019年の売上高が125.2億円なので41.1%
程度だということがわかります。今回は結果的にSPEEDAとその他事業の全売上を全体の売上高で割ることで比率が求められましたが、こちらの算出方法の方が(将来的にはNewsPicksやFORCASなどの売上が大きくなってくるので)正しそうです。
最後に
今回、昔とった杵柄で、決算資料に物差しを当てて売上を推定する、ということをやってみました。いかがだったでしょうか。次回以降、気になるKPI推移について紹介していきます!ユーザベースは複数のサービスを、利用社数などの数値も詳細に公開しています。アメリカの会社であるQuartzを日本の会社が買収する、ということはSONYやトヨタ、ホンダが達成したように、日本から世界へ展開するサービスだと思っており、勝手に胸熱なものを感じて応援している会社なので、とても分析が楽しみです!
最後にSaaSを理解するための本のご紹介と宣伝
SaaSの本質であるリード生成、商談獲得、商談受注までのプロセスを表す一連の流れを指し、Salesforce、Marketoで勤務した経験を持つ福田氏による名著です。基本的なSaaSオペレーションの諸概念について、簡単な言葉で表現してくれており、SaaSの全体観を掴むのに適しています(なお、SaaS全体のおすすめ本はこちらにまとめています)。
ちなみに2021年以降にIPOしたSaaS関連各社の四半期単位の各社については、本サイトをまとめた書籍を執筆しています。(画像クリックでamazonの新しいタブが開きます。)当該期間にIPOした新規上場SaaSの分類として、
- ホリゾンタル・バーティカルSaaS
- エンタープライズとSMBSaaS
などの分類とまた、その他関連SaaS書籍をまとめておきましたので、興味のある方は以下よりご覧ください。なお、リンクのクリックで個社の過去記事をご覧いただくこともできます。