TL:DR;
- 2019年から2020年へかけて売上高のうち「サービス」に関する割合がYoYで61%に急減
- Handbookは結構アグレッシブな値上げを実施したのか?
- アステリア Warp/Handbookの価格は月額数万〜数十万円の範囲。SMBからエンタープライズまで幅広く対応できる価格帯か
- 推定KPI推移(アステリア の期末時点MRR)はざっくり1.2億円
- 開示KPI推移(アステリア の従業員数推移):全従業員は2020年3月時点で108人
2019年から2020年へかけて売上高のうち「サービス」に関する割合がYoYで61%に急減
ではまずアステリア の売上高構成から読み解いていきましょう。2029年3月期のアステリア の有価証券報告書によれば、アステリア の構成事業は以下の通りになっています。なお、事業セグメントには投資事業がありますが、2020年3月期末時点の売上は全てソフトウェア事業から発生しており、今回は触れません。
ソフトウェア事業の提供サービスを見てみましょう。
ソフトウェア事業
(1)エンタープライズ
- データ連携ミドルウェアのAsteria Warp(月額利用料を包含したライセンス売上 + サポート)
- AIを搭載したIoT統合エッジウェアGravio(月額利用料)
(2)ネットサービス
- モバイル向けコンテンツ管理システムHandbook(月額利用料)
- モバイルアプリ制作プラットフォームPlatioを提供(明記はありませんでしたが月額利用料なはず)
(3)デザインサービス
- ブランディング戦略のコンサルティングや開発支援(都度発生)
ソフトウェアの売上区分
ソフトウェアの売上区分は
①ライセンス
ソフトウェアの使用許諾権。主なライセンス売上はAsteria WarpでHandbookも若干含む
②サブスクリプション
Asteria Warp Core、Handbook、Gravio、Platio
③サポート
ソフトウェア導入企業への問い合わせ対応、最新OSへの対応などを中心とした運用支援
④サービス
デザインサービスと教育サービスの2種類のサービスで交際され、前者はコンサルティング、後者はアステリア製品に関する研修サービス
提供しているソフトウェアサービスだけでも、Asteria Warp, Asteria Warp Core, Handbook, Gravio, Platioと5種類のソフトウェアを提供しているんですね。以上の売上区分を踏まえ、有価証券報告書より抜き出した事業別の売上構成は下記の通りです。なお、サブスクリプションについては記載がありませんでしたが、どうやら「ライセンス」の中に含まれているようです。直近の推移を見る限り、2019年から2020年にかけてライセンス売り上げがYoYで87%に減少、サポートは105%に増加。「サービス」の2019年から2020年にかけて61%に減少しました。これは、解約が起こらない限り月額が毎月発生するSaaSとは異なり、コンサルティング要素が強いことによりこのような急激な減少が起きているようですね。
気になるSaaS成分であるライセンス、についてはそれぞれのソフトウェアサービスの占める契約社数/単価/解約率などの情報は公開されていませんでした。では、決算説明会資料ベースの契約社数情報を見ていきましょう。
アステリア サービスの利用社数は8,520から9,999の間か?
全体像の顧客数については2020年3月期の通期決算説明会資料を見ていきましょう。まず、エンタープライズとネットサービスについては顧客数4桁、と言うことでした。これだけだと1,000〜9,999の間ですが、AsteriaWarpで8,520社、Handbookで1,562件とのことです。Handbookについてはサービスの特性上、事業部単位で使われることもありそうなので、ダイレクトに社数、とはならなそうですね。なので、ざっくり何らかのAsteriaプロダクトを導入している会社数はAsteria Warpの8,520社を下限として、9,999の間にいそう、つまりざっくり9,000社くらいなのではないか、と推定できます。
Handbookは結構アグレッシブな値上げを実施したのか?
Handbookの部分で一部気になるのは、2019年10月から値上げをしているらしいところ。25%って結構インパクトのある値上げな気がしますが、2019から2020にかけてライセンス料の売り上げが下がっているのはこのような施策の影響がもしかすると出ているのかもしれません。
アステリア Warp/Handbookの価格は月額数万〜数十万円の範囲。SMBからエンタープライズまで幅広く対応できる価格帯か
続いて、アステリア のホームページに載っている情報から、月額の料金がどの程度なのかを見てみましょう。まず、アステリア Warpから。
同社のホームページによれば、月額利用料は3〜30万円で5つのプランがあり、プランの違いは連携できる範囲がExcelなのかデータベースなのか、と言うところや、WindowsのみかLinuxも可能かと言う実行環境などの違いがあるようです。これはおそらくExcelで業務がまだ事足りる中小企業か、あるいは自前システムを構築している大企業か、のどちらにも対応できるようになっているみたいですね。
次はアステリア Handbook価格を見てみましょう。同社のホームページによれば、月額利用料は2.5〜40万円の価格帯で5つのプランがあり、プランの違いはストレージ要領で変わり、ユーザーの追加で料金が変動するようですね。これはおそらくハンドブックのプロダクト自体がモバイル向けコンテンツ管理システムということで、コンテンツをアップロードする要領を食うことが要員ということがありそうですね。こちらもコンテンツが少なくて住む企業と、大量にコンテンツを持っている企業で金額が変わる課金形態になっているようですね。
推定KPI推移(アステリア の期末時点MRR)はざっくり1.2億円
次はアステリア の推定MRRです。アステリア は売上にライセンスとサポートを含んでいるので、若干厳密性は下がりそうですが、
- MRR = (ライセンス + サポート売上高) / 12
をMRRと仮定すると、ざっくり1.2億円程度であると推定できます。ただ、サポートの売上高には都度発生のものも含まれていそうなので、若干この数字よりは低そうな感じはしますね。
開示KPI推移(アステリア の従業員数推移):全従業員は2020年3月時点で108人
さて、ざっくり売上高27億円のインフォマート。一体何人の従業員でこれらの売上を上げているのでしょうか。2020年3月末の数字によると全従業員数は108人で、2018年からは減少傾向にあるみたいです。デザイン事業の売上減少がもしかすると影響しているのでしょうか。そこまで詳しい事業別の開示はないので、こちらは今後の決算の中で明らかになってきそうですね。
最後に
1998年に創業、2007年に東証マザーズ上場後2018年に東証一部に市場変更した老舗SaaSであるアステリア についてご紹介しました。幅広い価格帯でたくさんの商品ラインナップを持ち、今後デザイン領域にも事業を広げているところがとても印象的でした。さらに、自社ホームページで幅広い料金を積極的に公開していたり(エンタープライズ向けのSaaSは割と資料請求が必要な場合が多いので、珍しいと感じました!)、本当にSaaS各社の情報の出し方は様々な出し方/見せ方があるんですね。とても勉強になりました。今後も、いろいろなSaaSを調べていきたいと思います。SaaSって、本当にいいものですね!最後まで読んでいただきありがとうございました。
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