TL:DR;
- 推定KPIとしてのMRRはもうすぐ1.5億円に到達
- 有料ユーザー数は7万人を突破
- 従業員数は60人でほぼ横ばい
さて、前回に引き続き、カナミックネットワークのKPIを紹介します。SaaS企業によっては、競合対策・不必要なミスリード防止のために公開しているKPIと非公開のKPIがあります。そこでるので、公開されているものは公開されているもの、推定で算出しているものは推定値と明記して以下紹介します。
推定KPI推移(カナミックネットワークの期末時点MRR)

まずは気になる推定MRRから。なお、カナミックネットワークはARR、MRRを公開していないため、クラウド売上であるカナミッククラウド売上を12で割利戻すことで推定MRRとして算出を行っています。新規の受注・計上が毎月何らかの形で行われていると考えると、若干推定MRRよりは高いMRRが期初時点ではあるはずですが、あくまでそこは便宜的に捉えるようにしています。推定のMRRは順調に伸び続けていますね。こちらは売上を単純に定数の12(ヶ月)で割っているだけですので、前回ご紹介したカナミッククラウドの伸び率と同じ伸びとなり、年によるばらつきはありますが約110〜120%のレンジで伸び率は推移しています。
開示KPI推移(カナミックネットワーク の有料/無料ユーザー数)

次にMRRの元となるユーザー数の推移について紹介します。ユーザー数は有料ユーザーと無料ユーザーを合算した全ユーザー数が10万ユーザーを2019年9月期末で突破しており、有料ユーザーは7万人を突破しました。

有料ユーザーと無料ユーザーの比率はどうでしょうか。直近の3年はほぼ横ばいになっていますが、有料ユーザー6.5:3.5という割合になっています。無料ユーザーも利用可能でありつつ、有料ユーザーの方が多いんですね。これは、いわゆるフリーミアムモデル(まずは無料ユーザーを獲得して、そのユーザーを有料ユーザーに転換していって売上を立てる)と異なり、カナミッククラウドの大前提としてまず施設という事業者が有料で導入して、必要に応じて無料ユーザーが利用をするモデルになっていることが特徴なのではないでしょうか。この辺はその他のSaaSでも割合に結構特徴がありそうで、横並び比較すると様々な学びがありそうですね。
推定KPI推移(カナミックネットワークのARPU/ARPPU)

まず、あまり聞き慣れないかもしれない用語の解説をします。
- ARPU(Average Revenue Per User):1人のユーザーあたりの売上を表します。エーアールピーユー、またはアープと読みます。
- ARPPU(Average Revenue Per Paid User):1人の有料ユーザーあたりの売上を表します。エーアールピーピーユー、またはアーププと読みます。
はい、また聞き慣れない用語が出てきましたね。これらの用語はソーシャルゲーム界隈の方には馴染みが深いかと思うのですが、1人ユーザーあたりの単価について表す指標です。先ほど紹介した推定MRRと、有料/無料ユーザー数の実数を使ってカナミックネットワークのARPU、ARPPUを推定すると、ざっくり
- ARPU:1,100円台
- ARPPU:1,700円台
ということがわかります。
ARPU、ARPPUは利用ユーザー数なので、これを事業者単位で集計したものがARPA(Average User Per Account:エーアールピーエー、またはアーパと読みます)ではありません。有価証券報告書には導入事業者単位では記載がないのですが、以下の資料によれば2019年9月期時点で導入事業所数は25,075いたことから、ARPAは
- 推定MRR約1.5億円 / 事業所数2.5万事業所 = 6,000円
でした。これをARPUで割り戻すと1事業所あたり何人の有料+無料ユーザーがいるかがわかりますので、
- 推定ARPA6,000円 / 推定ARPU1000円 = 6人
くらいのユーザーがいることが推定できます。
開示KPI推移(カナミックネットワークの従業員数推移)

最後のKPIとしてカナミックネットワークの従業員推移を紹介します。ここ数年、ほぼ60人でほとんど変わっていません。この間で売上高は1.7倍に成長してるので、かなり生産性が高まっているんですね。もちろん、単純に従業員数だけでSaaSを評価することは難しいですが、これらを比較することで、何人でいくらの売上を上げているのかという指標にはなるので、面白いですね。
最後に
今回は、クラウド事業の中に無料ユーザー、有料ユーザーをもつカナミックネットワークをご紹介しました。このメディアでも初めてARPU/ARPPU/ARPAが出てきましたね。私自身も過去ユーザー課金に関わっていた経験があるので、この辺とても懐かしかったです。これらの指標はtoC向けサービスだと横並び比較ができないのですが、SaaSの場合はその周辺情報から推定が可能で、比較できるのが可能で面白いですね。ただ、どっちが最強?ジョジョのディオとドラゴンボールの魔人ブウ?というような比較にはなるんですが、ビジネスの現場でそれをやるのはそれはそれでヒリヒリするものがありまして。
また、いろいろなSaaSを調べていきたいと思います。SaaSって、本当にいいものですね!最後まで読んでいただきありがとうございました。
最後にSaaSを理解するための本のご紹介と宣伝
SaaSの本質であるリード生成、商談獲得、商談受注までのプロセスを表す一連の流れを指し、Salesforce、Marketoで勤務した経験を持つ福田氏による名著です。基本的なSaaSオペレーションの諸概念について、簡単な言葉で表現してくれており、SaaSの全体観を掴むのに適しています(なお、SaaS全体のおすすめ本はこちらにまとめています)。
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