TL:DR;
- 日本の上場SaaS企業20社の財務指標を調べた
- 粗利率の最大値はウォンテッドリーの100%、平均値は7割
- PSRの最大値は弁護士ドットコムの40.2x、平均値は15.2x
- 全20社のうち積極型、勝負型キャッシュフローが6割で、少なくともコロナ前は産業として伸び続ける状態にあった
調査目的
著者SLの所属するSaaSスタートアップにて新規事業を仕込むために、すでに市場の仲間入りをしている会社にてどのような取り組みをしているのかを知ること。具体的には、定量的な財務情報/定正的なプロダクト情報で理解するため(コロナでそれどころではない感じはありますが、しっかりとビジネスを積み上げている先人から学ぶ上で決算情報ほど役に立つ情報は無いと思っているためです)。なお、定性的なプロダクトに関する考察は今後深堀りして行った企業に対して個別に公開していこうと思っています。まずは全体像の把握が目的、ということで調べた結果をこちらにまとめました。
調査対象
日本で上場しており、SaaS型のサービスを提供している会社20社を独断と偏見に基づいて抽出しています。
調査データ
- 各社最新の有価証券報告書(通期)
- Yahooファイナンス(時価総額の取得のため)
では、売上高から順番にご紹介していきたいと思います。
(1)売上高サマリ:最大値はサイボウズの134億円、中央値はHENNGEと弁護士ドットコムの間の33億円

まずは通期の売上高からです。今回の調査で使った有報における各社の決算期は、freeeの7期が最小で、サイボウズの23期が最大でした。知名度も圧倒的ですし、さすが長い間積み重ねてきた企業活動の結果がこの売上につながっているのだなと感じます。ついで売上高100億円超えSaaSとして、UZABASE、Sansanがランクインしています。ただ、そのすぐ後ろについているラクス、インフォマートあたりは営業キャッシュフローも十分プラスで出てるので、今期で売上高100億円超えSaaSの仲間入りをするのでは無いかという位置についています。
(2)粗利率の最大値はウォンテッドリーの100%、平均値は7割

次に粗利率についてです。粗利率が最も高かったのはウォンテッドリーでした。有価証券報告書の中に、売上原価の項目がなかったので、ほぼ原価はかかってないようです。その他19社も中央値、平均値共に6-7割となっているので、これはSaaSスタートアップも1つの目安水準となるのではないでしょうか。
(3)売上高に占める売上原価率の平均は28%、販管費率は65%

売上高に占める売上原価率、販管費率の平均については、それぞれ28%、65%でした。グラフにて、縦棒の高さが100%を超えている企業は営業利益がこの期はマイナスだった企業であり、ユーザベース、sansan、マネーフォワード 、freee、カオナビが入っています。
(4)PSRの最大値は弁護士ドットコムの40.2x、平均値は15.2x

PSRはSaaSが市場からどれだけ期待されているかの目安数字(時価総額/売上高、参考記事)。だいたい10以上と言われており、弁護士ドットコムの40xを最大として、freeeの30x、Chatworkの25x、カオナビの21x、インフォマートの20xと20倍超え企業が並ぶ。確かに顔ぶれを見る限り、TAMもかなり広そうかつ軒並み経産省の唱えているDX(デジタル・トランスフォーメーション)推進文脈にマッチするプロダクトを保有しており、市場から期待を受けるのもわかります。これがコロナにより今後どう変わっていくのか、については調査の目的からは外れてきますが、「完全に働き方が変わった中でどう企業にアジャストしたSaaSプロダクトを作るか」というイシューに明らかに効いてくるはずなので、また一年後に調べるのが今からとても楽しみです!
(5)全20社のうち積極型、勝負型キャッシュフローが6割で、少なくともコロナ前は産業として伸び続ける状態にあった

各社のキャッシュフローについては、
- 本業で得た資金を投資や借入金の返済に当てる健全型(営業CF+、投資CF-、財務CF-)
- 本業で得た資金を投資に回しながら、足りない資金を借入金などでまかなう積極型(営業CF+、投資CF-、財務CF+)
- 本業で資金が流出している中、借入金などの資金調達で得た資金を投資に当てている勝負型(営業CF-、投資CF-、財務CF+)
で分類すると、
- 健全型が8社(40%)
- 積極型が10社(50%)
- 勝負型が2社(10%)
でした。なお、勝負型はfreeeとマネーフォワード の二社でした。コロナの影響により、各社確実にこの大きな戦略と戦術の見直しを強いられることになるんだとは思いつつも、どのように変わるのかは引き続き注視していきたいと思います。
なお、この基準は、以下の書籍を引用しています。コミカルな語り口でとてもわかりやすいので、財務分析に対してとりあえず身近な話題から入りたい方にオススメです。
最後に
今後はコロナ後の世界で使われるSaaSを作るための着想を得るために、もっと各社のセグメント情報/公開済KPIだったり、プロダクトに関する考察を増やしていきたいと思っています。
最後にSaaSを理解するための本のご紹介と宣伝
SaaSの本質であるリード生成、商談獲得、商談受注までのプロセスを表す一連の流れを指し、Salesforce、Marketoで勤務した経験を持つ福田氏による名著です。基本的なSaaSオペレーションの諸概念について、簡単な言葉で表現してくれており、SaaSの全体観を掴むのに適しています(なお、SaaS全体のおすすめ本はこちらにまとめています)。
ちなみに2021年以降にIPOしたSaaS関連各社の四半期単位の各社については、本サイトをまとめた書籍を執筆しています。(画像クリックでamazonの新しいタブが開きます。)当該期間にIPOした新規上場SaaSの分類として、
- ホリゾンタル・バーティカルSaaS
- エンタープライズとSMBSaaS
などの分類とまた、その他関連SaaS書籍をまとめておきましたので、興味のある方は以下よりご覧ください。なお、リンクのクリックで個社の過去記事をご覧いただくこともできます。